はぐれDJ道
第3回「Here I am / Hammer Bros」
全ては「高橋名人」から始まった
1997年当時、私は全日本ファミプロ協会という協会に所属していた。
ファミコンのプロとして当時まだ一般的ではなかったクソゲーの攻略、
攻略法の執筆を生業としていた。15年早かったゲームセンターCXである。
「高橋名人」に関する情報の捜索も当然業務の一環だった。




全日本ファミプロ協会の攻略本「ファミ魂レザ」
全日本ファミプロ協会の攻略本「ファミ魂レザ」
1997年発売




「高橋名人」に関するありとあらゆる情報を集めていた折、ある一枚のコンピレーションCDを発見した。

「The Last Of The Mohicans / VA」一見なんの変哲も無い、
国内産として初の一般流通GABBAコンピレーションCD/アナログだ。
その中にある一曲「Here I am / Hammer Bros」を私は聞き逃さなかった。




The Last Of The Mohicans / VA
The Last Of The Mohicans / VA




「高橋名人!」「ゲームは一日一時間」「Welcome to 冒険島」「僕らの仕事はもちろん勉強、成績上がればゲームも楽しい」「外で遊ぼう元気よく」「僕らは未来の社会人」
BPM200オーバーの暴力的すぎるビートに載せてこれらの台詞が連呼される。

賢明なる読者の諸君ならご存知だと思うが、「高橋名人の冒険島」テーマ・ソングEPのB面に収録された、「高橋名人のシンクロナイズド冒険島」からのサンプリングだ。




あっ、今のメロン、取りたかったー!!!!
「高橋名人のシンクロナイズド冒険島」についても必要の説明は無いと思うが、一応付け加えておく。
ファミコンの「高橋名人の冒険島」発売当時、攻略に難儀したファミっ子少年達の為に、「高橋名人」が自ら1-1〜1-4までの4面をプレイし、ハイテンションで攻略法の中継をしているものである。
「高橋名人」は1986年にしてニコニコ動画の出現を予言し、ゲーム実況中継の基礎を固めたのだ。
しかし映像はついていないので当時の少年達は音源を聴き、想像しながら実際にプレイしてみるしか攻略の術はなかった。




高橋名人のシンクロナイズド冒険島




狂気のフリーペーパー、裏口入学'83
さておき、「Here I am」、このトラックを作ったHammer Brosについての情報を私は追い求めた。衝撃のあまり追いかけずにはいられなかった。
シスコアルタ店の端っこの方のレコ棚を探したり、レコ屋のテクノコーナーでhardcoreという文字や、ガイコツが描いてあるレコードをくまなく買い漁ったりした。
当時GABBAシーンではいくつかのフリーペーパーが流行っており、「裏口入学'83」というHammer Brosのフリーペーパーを発見した時、私は恐怖した。
異様なテンションと歪んでいる文字。高橋名人、はだしのゲンの画像を乱雑に貼り付けたコラージュ。
もしかしてこの曲を作っている人達は完全なアウトサイダー、何か線が切れている人達なのではないか。。。




裏口入学'83
裏口入学'83




恐怖に怯えながら引き続きファミプロとして活動を続けていたある日、Hammer Brosのライブがあるという情報を得た。
1998年2月20日@新宿liquidroom「GABBER STORM」
なんと本場ロッテルダムからEUROMASTERSも来日。国内主要GABBA/HARDCOREDJも集合。

これは行ってみるしか無い。
当時ファミプロ会報に記事にしたレポートを以下に引用するので、ご覧頂きたい。
今読むとあきらかに間違っている認識もあるが、その部分も含めて読んで頂きたい。




GABBER STORMレポート
以下引用
やあこんにちわんこそば!!!突然だけど、みんな「ガバ」って知ってるかな?
おそらくファミコンとは関係ないので知らない人が殆どだと思う!
ガバってのは1992年頃オランダで発生した音楽で、ハードコアテクノとかハードコアとも呼ばれている!平均BPMが200を超えているとても速くて怖い音楽だ!
テクノとパンクの融合と思ってもらってもいいかもしれない!

日本でもガバをやっている人達がいて、その中でハンマーブロスという人達がいる!
曲の中で高橋名人やはだしのゲンをサンプリングしたり、Quickjapanのインタビューでは高橋名人と友達になることが目標だと答えている!そんなかっこよく狂っている人達だ!!

そして2月20日に新宿リキッドルームでガバのパーティがあり、ハンマーブロスがライブをやるという!これは行くしかない!!!
そして当日、僕は友人とリキッドルームに行った。
とりあえずフロアを覗くと二人組の人達がライブをやっている。
ハンマーブロスは三人組と聴いていたので、体力温存のために友人とソファーでだべる。

そしてしばらくすると突然例の「高橋名人」の曲が!!!
ダッシュでフロアに飛び込むとさっきの二人組に加えてもう一人の人が!!!
BIG THE BUDOだ!しかも着ているのはハドソンのTシャツではないか!
最初にライブをしていたのはハンマーブロスだったのだ!!!
しまったと思いつつブースの前で踊り狂う。
そしてハンマーブロスのライブはその後10分ぐらいで終わってしまった。

ヤケクソでそのまま踊っているとメインのEUROMASTERSのライブが始まった。
今まですいていたのに人が鬼のようになだれ込みフロアは一杯に!
流石本場のガバは違うぜ!まけじと踊り狂う俺。

そしてEUROMASTERSが投げた帽子(FORZEというレーベルのものらしい)を偶然キャッチ!!!やったー!!!
その後握手もしてもらい、ポスターを配っていたのでそれも貰ってあつかましくもDJポールにサインもしてもらった。
(ハンマーブロスのレコードで「ヘイ!DJポール!頭が悪いね!」ってサンプリングされているのがある。)そして大満足で帰ったのでした。
以上です。




Here I am!!!!!!!!!!!
KAK-A recordingsのドメイン内に、当日のライブ録音の音源も上がっている。どういうライブが行われたのか、こちらも合わせて聴いて頂ければ当時の空気が伝わると思う。


live_19980202.mp3
Hammer Bros


日本のGABBAシーン黎明期から活動を続けていたHammer BrosはGABBER STORMのリキッドルームのライブで解散、一旦活動停止を迎える。しかしみち氏(BIG THE BUDO)がメインとなりGen Production(はだしのゲン中沢啓治氏オフィシャルサイト!)として活動を続け、2006年にHammer Brosベストアルバムの発売、そして復活ライブを行い活動を再開した。

Hammer Brosのベスト盤『AIR RAID YOUR ASS!』




Here I am / Hammer Bros




Hammer Brosの脈絡の無い(ように感じる)サンプリング、コラージュ、凶暴な雰囲気に惹かれ、全日本ファミプロ協会の会誌は攻略本にも関わらずコラージュが増えた。
紙面が凶暴かつ狂気に満ちたものになり、失踪、発狂するメンバーが多数出たためファミプロは解散した。その後私はファミコンをやりすぎた為ファミコンネタオンリーのアルバムを制作してしまうのだが、それはまた別の機会に語りたいと思う。
ビート・ゴーズ・オン


(音楽に関する部分以外はフィクションが含まれています)




関連サイト
BUBBLE-B・政所のSPEEDKING RADIO Vol.57 ゲスト:みち(ゲンプロダクション)
Hanmer Brosを始めた当初の話が聞ける

Hanmer Brosのみち aka BIG THE BUDO氏が再起動したドメイン。
現在進行中のプロジェクトの曲も聴く事ができる。
http://kak-a.jp/

Hammer Bros




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