手番ですよ。
第16回「突然のブックレビュー!『悪党どものお楽しみ』」



ゲームの面白さを多角的に紹介する「タナカマコトの手番ですよ。」、今回は、私がオススメする本を紹介したいと思います。
とはいっても、そこはこのコラムですので、「ゲーム」が大きく扱われたものを、ということでお送りしたいと思います。




悪党どものお楽しみ
悪党どものお楽しみ
パーシヴァル ワイルド (著), Percival Wilde (原著), 巴 妙子 (翻訳)




そんなわけで、突然のブックレビューの今回、ご紹介するのは、「悪党どものお楽しみ」(原題:Rogues in Clover)です。作者はパーシヴァル・ワイルド(Percival Wilde)。
発表されたのが1929年とかなり古い作品であり、また、日本で紹介されたのも2000年と、結構前なのですが、久しぶりに読み返してみたところ、これが面白いのなんの。まったく古さを感じさせないどころか、軽妙な語り口と展開は、なんとなく「今風」。これは、ぜひ、紹介せねばなるまい、となったわけです。

凄腕ギャンブラーだったビルも、今は一人の農夫として、真面目に暮らす毎日。
そんなビルだが、無類のギャンブル好きトニーに巻き込まれ、引っ張られる形で、さまざまなイカサマ師たちと相対することになっていく・・・。
というのが、大まかなあらすじとなる連作短編集。
そしてビルは、豊富な経験や鋭い洞察力など、凄腕ギャンブラーとしての力を駆使し、イカサマ師たちのイカサマを暴いていく、という内容。

とにかく、各作品ごとに用意されたアイデアとストーリーが、外れなし、どれも秀逸。
いくつものイカサマが交差すしていくその発想に唸らされる、まさにこの作品ならではのエピソードもあれば、知恵を絞った白熱の戦いを描いた王道的なエピソード、ちょっとした人情話を絡めてじんわりと訴えてくるエピソード、どれも短編でありながらしっかり読ませてくれます。
それぞれのエピソードにおけるビルとトニーの掛け合い、やりとりが実にスムーズで、自然とその話の中に引き込まれるのも非常に上手い。「ホームズとワトソン」、「古畑任三郎と今泉慎太郎」というような関係だと思ってもらえれば、イメージしやすいでしょうか。いくつかのエピソードを読めば、きっと、ビルとトニーが魅力的な二人になっているはず。

そして、もちろん、外すことができないのが、「ギャンブル」、「ゲーム」の部分。
登場するのは、ポーカー、ルーレット、チェスと様々なんですが、どのギャンブル、ゲームもしっかりと描かれており、ゲーム好きなら思わずニンマリしてしまうはず。細かい描写や、ルールの説明があるわけではないのですが、それぞれのゲームの「キモ」のようなものはしっかりと伝わってくるように描かれており、短編の中に描かれる「ゲーム」としては、非常にバランスがいいんじゃないでしょうか。
その上で繰り広げられる、虚々実々のやりとり。
そして、そのあとに待っている、イカサマを見破った時の痛快さ。
やっぱり、ゲーム好きとしては、ギャンブルやゲームのシーンの描き方がショボイと、感情移入ができなくなってしまうわけで、その点、この作品の描き方は、抜群。
これで面白くないわけがない!

名作として語り継がれる作品だけに、ミステリー、エンターテインメント小説としても、非常に完成度が高く、「古典」とは言われていても、魅力的なキャラクター造形、テンポのいい展開と適度なユーモアは、まさに現代的。
「ギャンブル」や「ゲーム」に興味がある人はもちろんのこと、興味のない人にも広く読んでもらいたい作品、というのが本当のところ。
少しお値段は高めですが、ちょっとでも気になった方には、ぜひとも読んでもらいたい一作!
まだまだ寒い日も続きそうなので、部屋を暖かくして、ゆっくりとどうぞ。




関連サイト




TOPページに戻る | 過去の記事を読む