大衆酒場ベスト1000
第2回「金の字(清水)/ポーク焼き」
場末シーンの三ツ星店
 ミシュラン?とかdancyu?とか星三つ?とか、いわゆる我々庶民にとって憧れの対象となる飲食店ってありますよね。フレンチだったり、懐石だったり、サシがキメ細か過ぎてピンク色になっちゃってる牛のお肉だったり。たまの記念日に奮発して、そういった名店の価格に違わぬハイクラスな味、エグゼクティブなサービスを楽しむのってすごく素敵な事だし、人生の良きスパイスになるなぁなんて思います。しかしそんな、宝石の様にきらびやかな名店たちがある一方で、僕のように場末大衆居酒屋好きの中にもシーンという物があり、そんな特殊シーンで全国に名を轟かす名店ってのもまた多数存在します。典型的なのが、例えば今回ご紹介する静岡県清水市の老舗居酒屋“金の字”。

 こういった場末店のミシュラン店との最大の差というと、やはり“お値段”ですよね。例えば金の字の看板メニューである“もつカレー”。カレーライスではなく、焼鳥状の串に刺された豚のモツをドロッとしたカレースープで煮込んだオリジナルな一品です。1串80円也!どうです?どっかのミシュラン店に、80円のメニューってありますか?ミシュラン店はただのジュースが800円とかしますよね?例えばミシュラン店(※)でディナーでも頂こうとなれば、お酒代を除いてもひとり8000円なんてザラですよね?しかし金の字では8000円も払えば、全国の居酒屋ファン垂涎のもつカレーが、都合100本食べられるのです!(あとで吐くと思うけど) ――結局何が言いたいかというと、金の字のもつカレーと高級店のA5ランク和牛、丸腰で戦えば確かにもつカレーの分が悪い、がしかし!費用対効果を考慮するならば、十分に渡り合う事が可能となり、そこにこそ感動と希望、大衆店のロマンが存在するという事です!

 ところで清水と聞いてみなさんが思い浮かべるのが、エスパルス、ちびまる子ちゃん、あと清水港ですよね?そう、清水は港町なのです。だから港に行けば“おさかなセンター”があり、数多くの食堂が新鮮な海の幸をやれ刺身だ、天ぷらだ、煮つけだと様々に調理して提供してくれます。また市場には見るからに色ツヤの良い魚介類が驚く程の安値で並んでおり、我々県外客を魅了して止みません。それでも僕は、金の字のもつカレーを目指して静岡に向かいましたね。

 さて、先程からしつこく連呼してしまっている“もつカレー”についてもう少し詳しく説明してみましょう。金の字さんが発祥となるこのメニュー、特許の申請に失敗したのか、今や清水中の居酒屋さんの定番となり、駅のおみやげコーナーには缶詰までが売られている名物料理となっています。金の字さんの厨房の真ん中には、炊き出し様の大鍋に、ザ・和風といった香りの具無しカレーが茹だり、その中に無数の串が突っ込まれてあります。一体どうやって?ってくらい丁寧に下ごしらえされ、臭みを全て取り除かれたモツが5切れくらいずつ刺された串です。人気店ですので、大事を取ってオープン10分前にお店に向かい「やった!誰も並んでないぞ!」と一安心、暖簾を捲ってみるとすでにほぼ満席!という僕の体験もさして珍しくないようですね。さらに無謀な事にはここ、持ち帰り注文にも対応しており、店内でひとり何本と頼んでるのに、持ち帰りの人が一気に30本!とか、お客としては常に気が気じゃない状態なのです。確実にありつきたいなら少なくともオープン〜15分くらいまでの間には席を確保して、さっさと欲しいだけ注文しちゃいたい所ですね。様々なスパイスが煮込まれたコクと甘味、さらに味を引き締めるほのかな苦味が、フワッとして適度な歯ごたえのあるモツと絡み、噂に違わぬ美味です。しつこさはなく、100本は大袈裟でも、ひとり5本10本はツルっといけちゃいますね。試しに他店で頼んでみたりもしたんですが、この臭みの無さと絶妙な味付けに到底適う物ではありませんでした。

 と、ここまで書いといてアレなんですが、もつカレーは知ってる人は十分知ってる、今さら紹介するまでもない名物料理ですね。実は金の字さんで他にも何品か注文した中で、個人的にもつカレー以上に感動したメニューがあります。それが表題の“ポーク焼き”。お値段850円と、ラインナップの中では高級な部類に入りますが、実際供されると十分納得。大きめの皿にかなり分厚く切られたポークがドサッと盛られ、その見た目はまさにステーキ!もつとカレーをここまでの料理に昇華させた確かな技術に裏打ちされた、絶妙な焼き加減とたまらないタレの風味。溶け始めたバターを絡めて口に運んだ時の至福と言ったら!!! 添えられたセロリの浅漬けで口をリフレッシュさせてのローテーションを永遠に繰り替えしていたいと思わせる逸品でした。




ポーク焼き/850円
ポーク焼き/850円




 みなさんも行ってみるといいんじゃないですか〜!? ではまた!


 (※)便宜的に使用しており、他意はありません




関連サイト
金の字 本店 きんのじ - 清水/焼鳥、居酒屋、焼き鳥 [食べログ]




TOPページに戻る | 過去の記事を読む